ロンドンの歴史:馬車宿 The George Inn

The George Inn

先日、美しく歴史を残す古いパブを発見しました。発見した時、こんな(素敵なものが)まだロンドンに残っていたのかと感嘆!

 

ここ10年の間に、古い伝統的な内装のパブは、どんどん姿を消し、若者を集客するためにオシャレなインテリアのガストロパブなるものに変化していきました。

 

そんな中、なんと1677年に改築されて以来そのまま利用されているパブが、ここロンドンのサザークに存在していたことを、私は2012年になって発見しました。

The George Inn

このパブThe George Innの歴史を紐解くと、いつオープンしたか古すぎて記録に残っていないそうです。しかし1542年の地図にはもう存在しているそうで、あの有名なヘンリー8世の時代には、すでにこの馬車宿+パブはもう確立していたようで、管理人のニコラス・マーティンという名前が残っているそうです。

 

当時、テムズ川の向こうの「シティ」と川手前の「田舎」をつなぐ唯一の橋が、このパブの近くにあるロンドン橋で、旅行者や商人が便利に泊まる宿として以外にも、サフォーク侯爵やハイド修道院長が常連客の「おしゃれ」な宿だったらしいです。

 

パブの姿は表通りからは見えず、ビルとビルの隙間に隠れていて、知らなかったらまず気づくことはなく通り過ぎることでしょう。確かに、当時は馬車での宿場、入り口はぎりぎり馬車が入れる広さか、その入り口を通り抜けると、なんと中の広場は広く、シェイクスピアの演劇が披露された時代もあったというから納得。現在はそのスペースには長テーブルが並べられ、建物も細長く広い。

 

建物右半分は、きっと当時は馬屋と上に侍従の宿泊場所、左半分は、主人が泊まるベランダが付いたおしゃれな構造になっています。中に入ると、12階部分がパブ、食事ができるスペースになっており、きっと当時の人たちが泊まったと思われる3階の部屋の部分は、公開されていません、残念。しかし、2階部分の小さなホールには、真ちゅうのフックが複数あり、ここに宿泊者の帽子やコート(当時は外套?) が掛けられたことが想像できます。

 

美しい木製階段の手すり、板張りの壁が美しく磨かれ、また2階部分には当時のままの大きなレンガの暖炉が残され、いくら1930年に修復されたとはいえ、1700年代、1800年代の当時の人たちがここで語り、飲み食べ、一晩を過ごしていったか、そのままの内装と真鍮のランプがそれを物語ります。

 

 

The George Inn

1800年代になると、チャールズ・ディキンズ(当時の有名な小説家)の「Little Dorrit」という小説にも登場し、実際にディキンズ本人が子供のころから深くかかわったところのようです。

1930年代になると、このディキンズの熱心なファン兄弟が一度買い、内装の修復に入ったものの、危険なまでに老朽化が進んでいることがわかり、断念。最終的には歴史の価値を見出され、ナショナルトラスト(歴史的建造物や自然の維持管理をするチャリティ団体)に寄贈されました。

 

それ以来、この建物は、修復はされるものの商業的に手が加えられることもなく、当時のままの姿で、550年間ここに存在します。1930年代の修復後の再オープン以降はパブ会社が入り、私たちも当時の人と同じように食事とビールが楽しめるなんて、イギリスの歴史好きの私には、これ以上の幸せはありません。